COLUMN

2017.4.3 mon | COLUMN

壮絶なる最期のパ・ド・ドゥを、力の限りに踊りきり――エトワールは「星」を胸に、新たなステージへと旅立った

パリ・オペラ座バレエ「マノン」 オーレリ・デュポン アデュー公演・後編

自分との愛を捨て、GMとの贅沢な暮らしを選んだマノンなのに、それでもひたむきに彼女を愛し続ける哀れデ・グリュー。しかしマノンの人生は、ここから一気に転落していきます。兄のレスコーを目の前で殺され、自身も売春の罪で捕えられ、ルイジアナの流刑地へ。すでに弱り果てた体を看守に乱暴された挙句、デ・グリューに助け出されて迷い込んだ沼地で、最後のクライマックスシーンを迎えます。瀕死のマノンがわずかに残る力のすべてを振り絞って飛び込む先は、デ・グリューの腕の中。彼女の体が空中で旋回しては落下する凄まじいパ・ド・ドゥをノンストップの疾走感で踊りきれるのは、デュポンの緩急自在のコントロール力とボッレの力強いパートナリングがあってこそ。そして、マノンは息を引き取ります。「逝かないで、ねえ起きて!」横たわる彼女の体の下に必死に背中をもぐりこませて起こそうとするデ・グリューの慟哭で、幕。――愛する人をただ愛し抜いただけなのに、こんなにも不幸になってしまったデ・グリューはあまりにも気の毒ですが、ならば愛よりもお金を選んだマノンが悪いのかといえば、単純にそうとは思えないところがこの作品の奥深さ。マクミランはこう言ったそうです。「その時代、貧乏であることはすなわち、長い時間をかけてゆっくりと死んでいくことなのだ」と。誰かを責めることも、何かの価値観を押し付けることもなく、ただ人生のなかにある哀しさやどうしようもなさを目の前に差し出されたような後味の残る作品です。

マノンの一生を踊りきったオーレリ・デュポン。それは同時に、彼女がオペラ座のダンサーとして、そしてエトワールとして、バレエに身を捧げた人生を生ききった瞬間でもありました。静かに涙をこぼしながら、降り注ぐ星形の紙ふぶきをひとつ手に取って、ぺたりと胸に貼り付けたデュポン。幕間のインタビュー映像で、「バレエを始めた頃の自分に伝えたいことは?」の問いに答えた彼女の言葉とともに、心に残るシーンです。

Profile
阿部さや子(有)オン・ポワント 企画・制作部 部長
大分県佐伯市生まれ、臼杵市育ち。
九州大学文学部卒業、大分大学大学院教育学研究科修士課程修了。
APU立命館アジア太平洋大学職員等を経て、2004年、バレエ関連書籍や専門誌をメインに刊行する株式会社新書館に入社。「クララ」「クロワゼ」編集部に配属。
2009年「クララ」「クロワゼ」編集長就任、以後「ダンシン」編集長、「ダンスマガジン」編集長兼務を経て、2015年秋より新書館の起ち上げた新会社「オン・ポワント」企画・制作部 部長に就任。
現在はバレエ雑誌やバレエ公演プログラム等に執筆・寄稿する他、バレエ・ダンス関連イベントのプロデュース、DVD(「パリ・オペラ座エトワールに教わるヴァリエーション・レッスン」等)・CD(「Dramatic Music for Ballet Class」等)・書籍(コミック『SHOKO~中村祥子、世界へのグラン・ジュテ』等)の企画・制作、バレエ漫画(『ダンス・ダンス・ダンスール』小学館ビッグコミックスピリッツ)等の監修などを手がけている。また、大学やカルチャーセンター等で、バレエやダンス、ミュージカル関連のゲスト講師等を務めている。

FAIRY
http://www.nbs.or.jp/
Pony Canyon
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