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「マノン」よりオーレリ・デュポン、ロベルト・ボッレ  Photo:Julien Benhamou

2017.3.8.WED | COLUMN

愛よりもお金を選ぶのは悪なのか――パリ・オペラ座の大エトワールが最後に選んだ魔性の女の物語

パリ・オペラ座バレエ「マノン」 オーレリ・デュポン アデュー公演・前編

このDVDが非常におすすめな理由は2つあります。ひとつは『マノン』という作品そのもののおもしろさ。ドロドロでドロドロを洗うような波乱万丈のドラマが繰り広げられたあと、最後に残るのはただひとつの清らかな愛。その一部始終を描き出すケネス・マクミランの振付が素晴らしく、バレエを観慣れない人にも確実に伝わる濃密さと分かりやすさで、私たちを力強く物語の世界に引きずり込んでくれます。もうひとつは、これがかのパリ・オペラ座バレエの名花にして昨秋新芸術監督に就任したばかりの大エトワール、オーレリ・デュポンのアデュー(さよなら)公演を収録した映像だということ。エトワールとして最後の舞台を間近に控えた楽屋インタビューや、その舞台を踊り終えた瞬間の表情を捉えたカーテンコールなど、本編以外にもぐっとくるシーンの数々が収められています。

18世紀初めのフランス、パリ郊外の街。美少女マノン(オーレリ・デュポン)と神学生デ・グリュー(ロベルト・ボッレ)は恋に落ちますが、好色な大富豪ムッシューGM(バンジャマン・ペッシュ)は彼女の兄レスコー(ステファン・ビュリョン)に大金を渡し、「きみの妹を我が愛人に」と手引きを要求。若き恋人たちの愛の生活も束の間、GMは豪華な毛皮や宝石をマノンにまとわせ、彼女はあっさりと彼の愛人になる道を選びます――。

このくだりを鮮やかに描き出すふたつの踊りこそ、まさに作品前半のハイライト。まず、結ばれたばかりのマノンとデ・グリューが寝室で踊る愛のパ・ド・ドゥは、ガラ(コンサート形式のバレエ公演)等でもここだけ抜粋されるほど有名なシーンです。無邪気にじゃれ合ったかと思えば、熱く見つめ合って唇を重ね、感情のほとばしるままに様々な回転技やリフトを繰り返す……。しだいに加速度を増す振付を、流れるように織り上げていくデュポンとボッレ。この踊りの前後に交わされるふたりのやりとりも、恋をした経験のある人ならきっと甘やかな共感を覚えるはず。

しかしそんなトキメキはすぐさま、直後に踊られるマノンとレスコーとGMによるパ・ド・トロワ(3人の踊り)の衝撃に押し流されてしまいます。自分の体に触れさせるたび激しく興奮していく老富豪を見て(GM役を演じるペッシュの目つき、手つき、腰つきにご注目)、マノンは自らの「価値」に目覚めていきます。その描写の生々しさたるやR18レベルですが、こうしたシーンこそ、言葉ではなく身体ですべてを語るバレエの威力を感じさせてくれます。(後編へ続く)

Profile
阿部さや子(有)オン・ポワント 企画・制作部 部長
大分県佐伯市生まれ、臼杵市育ち。
九州大学文学部卒業、大分大学大学院教育学研究科修士課程修了。
APU立命館アジア太平洋大学職員等を経て、2004年、バレエ関連書籍や専門誌をメインに刊行する株式会社新書館に入社。「クララ」「クロワゼ」編集部に配属。
2009年「クララ」「クロワゼ」編集長就任、以後「ダンシン」編集長、「ダンスマガジン」編集長兼務を経て、2015年秋より新書館の起ち上げた新会社「オン・ポワント」企画・制作部 部長に就任。
現在はバレエ雑誌やバレエ公演プログラム等に執筆・寄稿する他、バレエ・ダンス関連イベントのプロデュース、DVD(「パリ・オペラ座エトワールに教わるヴァリエーション・レッスン」等)・CD(「Dramatic Music for Ballet Class」等)・書籍(コミック『SHOKO~中村祥子、世界へのグラン・ジュテ』等)の企画・制作、バレエ漫画(『ダンス・ダンス・ダンスール』小学館ビッグコミックスピリッツ)等の監修などを手がけている。また、大学やカルチャーセンター等で、バレエやダンス、ミュージカル関連のゲスト講師等を務めている。

パリ・オペラ座バレエ『マノン』~オーレリ・デュポンさよなら公演~

2015年5月にパリ・オペラ座ガルニエ宮にて上演されたオーレリ・デュポンさよなら公演を待望のDVD化。世界中のバレエ・ファンに愛され続けた麗しき踊り子、オーレリ・デュポン。本公演をもってエトワールを引退。2016年夏からパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督に就任。

DVD 5,800円+税 カラー 127分 2015年 日本語字幕
特典:オレリー・デュポン インタビューカット

FAIRY
http://www.nbs.or.jp/
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